ふ、と思い出したお父さんの父親の記憶
ふ、と思い出したことがあるんよ。
そういえば、まじこがあの小中学校時代を過ごしたお父さんには父親がおって、お母さんと何度か会いに行った事がある。
あれは何のために行ったんかわからへん。
あれは「当時のお父さんの父親」だということが、のちのちに聞かされたんよ。
優しいお爺さんで、まじこが行くと優しいまなざしでまじこを見ていたわ。
お爺さんのわりには少し若い女性と住んどった。
ただそれだけの記憶やけど、あのお爺さんはその後どうしたんだろうな。
中学時代はなんとなく時間を潰しているだけの過ごし方を送っとった。
まじこのお爺ちゃんがいなくなってから、まじこはお爺ちゃんの家に行く回数もめっぽう減っていたんよ。
お母さんはその頃保母さんをして充実しているようだったわ。
まじこはお母さんが時々家に連れてくる保育園の子供が嫌でたまらんかった。
受験だ。勉強だとお母さんは日ごろ口うるさく言う割には、狭い我が家に保育園の子供を連れてくることが多かったんよ。
狭い我が家に他人の子供を連れてくるお母さん
今の時代なら考えられないことだけど、当時は個人的に保母さんの家に子供が遊びに来たり、泊まりに来たりすることが問題視されるような時代ではなかったんや。
お爺ちゃんがまだ病院に入院する前、受験についてお母さんと話すことが何度かあったわ。
そりゃまじこはテスト用紙の裏に漫画を描いたり、でたらめの回答を描いて出していたんだから、当然成績なんて評価されるような対象になっていなかったんよ。
優秀な従兄姉や姉と比較すれば入れる高校は絞られていたわ。
「私立なんて合格しても授業料や学費を払えない」が大人たちの考えやった。
お母さんは女の子なんだから花嫁修業の基礎が学べる学校で、将来は何か資格を取ってというのが望みだったんよ。
当時その地域では公立高校へ合格できなかった子が私立へ行く、私立でも普通科だけはランクが別で大学受験を目指す坊ちゃん嬢ちゃんが通える学校みたいな認識やったんや。
親に勝手に決められた不満だらけの進路
まじこは特にどうしたいという希望はなかったわ。
無かったというよりどうでもよかった。
当時、姉は電電公社に勤めていた。
せっかく一浪して入った国立大学だけど2年生ぐらいで大学は辞めていたわ。
そして当時のお父さんのコネで電電公社に勤めることができていたんや。
電電公社の交換手をしていた姉は、休憩時間にたまに連絡をくれていた。
その時に母が話す内容がまじこのことで、狭い家の中で聞こえよがしにまじこのことを話されるのが嫌で嫌でたまらなかったんよ。
親に勝手に決められた進路は公立で、7校あるうちの5番目、花嫁修業にはぴったりの高校。
家から歩いて10分。
でもそこも危ういから受かるわけないけれど、滑り止めで私立普通科を受験せよ!という大人たちからの指令やった。
滑り止めで受けて絶対受からないような高校、しかも受かったとしても通えない高校をなんで受験せにゃならんのか、まじこは不満だらけだったわ。
受験票の席でトランプのジョーカーを気取る
受験当日、受験票の席に座ると、知った顔ぶれが座っている。
なんだか自分がトランプのカードになったような気分になって、選ばれて捨てられるか、しぶとく残って最後までつかんでいた奴にコンチクショーといわせるか。
みんな必死に解答用紙に向き合っている中、まじこはそんなことを考えていたんよ。

問題はそう難しそうではなかった。
商業高校の普通科だけに算数はちょっとレベルが高かったな。
でもまじこはジョーカーになってみようと思ったんや。
ジョーカーになって最後まで残ってやろう。
そしてあちゃ~!ってみんなをドン引きさせたろ思ったんよ。
この試験のテスト用紙の裏はきれいなままいたずら書きもしないで提出したわ。
回答も全部記入した。
みんなはまじこが何もわからないお勉強のできないお馬鹿さんだと思ってる。
中学生の時に言われた先生の一言から転校してお勉強をする気がなくなったこと。
勉強しろという割には勉強できる環境がなくなっていたことがその時わぁ~と頭の中に浮かんだんよ。
当時は悔しかったしすごく腹が立っていた。その思いがこの大事な試験の時に湧いてきてどこにその思いをぶつけてやろうかと思っていた。
目の前にあるのは試験の用紙しかない。
まじこはそこにぶつけるしかなかったんや。
みんなはまじこがあとでおばちゃんに話を聞くと、学校に通えなくても受験の体験をしておけば、公立の受験の時に落ち着いて受験ができるだろうという大人たちの思惑が入っていたことを知った。
私立は公立より早く受験があるため合格発表も早かったんよ。
まじこは合格した。
ジョーカーになることができたんや。
合格発表があった日、大人たちはみんな驚いていたわ。
学校の先生も然り。
え〜商業の普通科やで、絶対無理だと思ってたわ。
それが大人の本音やろ。
安堵した大人達は、なら公立も大丈夫やろ。
そんな簡単な解釈をしていたわ。
そりゃそうだ、学校の先生から言わせると〇〇家だから。
努力をしたかしないかではなくて、結果論として落第はありえへんことなんや。
1カ月後公立の受験があった。
まじこはお母さんが希望している高校の受験を迎えたんよ。
親の強い干渉。勉強しているまじこの後ろで布団を敷いて寝る親
受験勉強しているふりはしていても何一つ勉強できなかったわ。
まじこの勉強机の後ろでは母が布団を敷いて寝ていた。
お母さんが週末になると連れてくる保育園の子供。
お母さんの干渉。
勉強するタイミングで布団を敷いて寝る親。
どれもこれも勉強なんかよほど好きじゃなきゃできる環境ではなかったわ。
まじこの受験地獄はちょっと一般的な受験地獄とはわけが違っていたかもしれないな。


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