まじこは小さい頃、胸囲が足りないくらいのやせっぽちやった。
さらにこの頃から、目がピクッピクッと動くようになったり、口の中に不自然につばが溜ま
って気持ち悪くなったりするようになっていたんや。
吐くわけではないけど嘔吐反射があったんや。
頻繁に口の脇に溜まるつばを気にしてこすって拭くもんやから、口角は色素沈着し周囲が肥
厚して皮膚がカピカピになっていた。
これは誰かに何かをされた記憶ではなく、自分自身で「なんだか気持ちの悪い日が続いてい
るな」と感じていた記憶やから、今でもよく覚えている。
お母さんに連れられて大きな病院を受診した結果、「自律神経失調症」と診断された。
お母さんの厳しさ、お父さんとお母さんの激しい喧嘩、夕方からの恐怖や不安、心配……そ
んなことが、子供の心にどんどん積み重なっていたんやと思う。
学校へ行っても勉強に集中できず、落ち着きがない。それは確かに、当時の通信簿に書かれ
ていた事実やった。
学校には仲の良い女の子もいたのに、その子等と帰らずに、わざわざ遠回りをしてほかの子
と帰るようになっていた。「家に帰りたくない」という一心でだったんやろな。
結局は家に帰るんやから同じことのような気もするけど、当時のまじこは、少しでもあの「心
配な時間」が始まるのを遅らせたかったんやろうなと、今考えるとそう思う。
詳しい道順は覚えていないが、家とは全く逆の方向に住む男の子たちと、ぶらぶらと遊びな
がら帰っていた気がする。大きな通りに出て道路の縁石に腰掛け、通り過ぎる車の数を数え
たり、寄り道をして他の子の家に遊びに行ったりして、時間を潰していた。
「鍵っ子」への憧れ
当時、世間では「鍵っ子」と呼ばれる子供たちが増えてきていた。
共働きが増え子供が帰宅する時間に親が家にいない。
それで子供に家の鍵を持たせて、自分たちで家に入れるようにしている家庭のことや。
大概の子は、その家の鍵に紐をつけて首から下げていた。
まじこはなぜか、それがとても羨ましかったのを覚えている。
そういう友達の家に行くと、誰にも何も干渉されず、本当に楽しく過ごすことができた。
それに、自分の部屋を持っている子の部屋には、いろんなものが自由に揃っていたんや。
親が作った部屋というよりも、その子の「好きなもの」で彩られた空間という感じで、まじ
この部屋とは大違いやった。
まじこの部屋はきれいに整理整頓はされていたけれど、どこか殺風景だった。
そんな楽しい寄り道が終わって家に帰ると、まじこが手洗いうがいをする前に、お母さんか
らの言葉が飛んでくる。
「手洗った?」「うがいした?」「足洗って!」と、矢継ぎ早に言われるんや。
急き立てられるから、ランドセルをとりあえず階段の上において、言われた通りのことをさ
っさと済ませる。
するとその隙に、お母さんはまじこのランドセルを見つけて、また怒り出す。
「またこんなところに置きっぱなしにして!お便りはないの?宿題は!?」と、逃げ場がない
くらい攻め立てられるんや。
おやつを食べれば食べたで、「お菓子の屑がテーブルに落ちる」とか「食べ方がどうとか」、
とにかくおやつを食べてようが、ご飯を食べてようが、いちいち細かいことを言われる。
それが、まじこにとっては本当に苦しかった。
そして、夕方になるといよいよ「恐怖の時間」や。
まじこの頭の中には、まるで走馬灯のように、夜の心配がどんどん押し寄せてくるようにな
っていた――。
🌟まじこからのコメント🌟
子供の精神的な不調って子供自身気が付かないことが多い。まじこも目のピクピクやオエッとなることは最初は「わざと」だと思ってお母さんから怒られてたんよ。行儀が悪いって。
でも自分でもただそうなるだけでおなかが痛いわけでも何でもなかったからわからなかったんやな。
病院へ行って正解か不正解かはわからない。
でもそうなる原因は「日々の積み重ね」で起きた事なんやとわかった。
細かいこと気にしない方がいいと他人は言うかもしれん。
でもな感情ってセンサーなんよ。センサーが反応してから「あ~いかんいかん気にしないでおこう」って思っても遅いんやな。
だから気にせんでじゃなくて「嫌なものは嫌」って言った方が楽になるで。



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